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式の前日、このところあまりよく眠れなかった。緊張しているのだ。
今日は実家で久しぶりにお父さん、お母さんと過ごした。おばあちゃんも来ている。
「雷文組の隣に家を買ったんか」
「偶然だったのよ。こんなことになるなんて」
「おばあちゃんは、雷文組となんかあったの?」
おばあちゃんはしばらく考えていた。
「明日わかる。雷文十郎太に会えるだろ?」
「うん、いまあまり調子は良くないけど、起きていられるようになったし」
「お前が雷文に行くとはね。運命としか言えないよ」
おばあちゃんは何か隠している。でも今は言いたくないわけか。
「明日は僕、ウェディングドレス着るんだ。女の子の格好するけどびっくりしないでね」
「それも虎太郎の趣味?」
「こたクンがプレゼントしてくれたんだ。昨日届いて試着してびっくりしちゃった」
「明日は、早朝から雷文家に行ってしまうんだな」
「今日はみんなで布団引いて寝よ。記念にさ」
「雪兎ぉ~!嫁になんかやりたくないよぉ」
「お母さん、いまさら何言ってるの?」
「冴子、お前がしっかりしないから雷文に取られたんだよ。お前のせいだ」
「おばあちゃんもやめて」
「お母さんも冴子も・・・楽しく送ってあげようよ」
お父さんが割って入る。おばあちゃんが声を荒げるのなんて初めて見た。何の因縁があるんだろう。
その夜は手を繋いで川の字で布団に入った。なんか小さい時を思い出す。お父さんとお母さんの間に寝てたなぁ。懐かしい・・・いつまでも子供ではいられない。
こたクンなんか10歳位で大人の仕事してたんだから・・・ずっと追いつけなくて当然だったんだ。
ずっと僕が大人になって行くのを待っててくれた。明日、僕はやっとこたクンのお嫁さんになれる。それが困難な道だとしても、こたクンがいれば大丈夫。
やっとこたクンに触れられる。僕はちょっと不謹慎な事を考えていた。
ずっと、ずっと待ってたんだもん。
もちろんまだ怖いけど、今はそれよりこたクンに愛されたい方が勝っている。
極道の妻になる。明日は一堂にヤクザさんたちが会する。
こたクンは17歳でそんな大きなものを背負わなきゃならないんだ。
つくづく虎太郎の背負う物の大きさにびっくりする。少しでも一緒に背負わなきゃ・・・天井を見つめながらそんな事を考えていた。
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