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「長く繁栄されてきた大河内屋の歴史を、お前はわかっていない。いいか?しきたりに従い、長女であるお前はこの家を継ぐ使命がある。それを忘れるな」
その言葉に、私は勢いよく椅子から立ち上がった。
「何がしきたりよ!いったいいつの時代の話をしているの!?継ぎたい者に継がせればいいじゃない!」
「ふざけたことを口にするんじゃない。大河内屋を何代の当主で守ってきたと思っているんだ?」
守ってきた?笑わせないで。
お父さんはただ、自分の代でつまずきたくないだけ。
私の未来なんて、大河内屋の未来なんて見ていない。
ただ、自分が良ければそれでいいと思っているのよ。
きつく手を握りしめる。
「高遠家との縁談も無事に決まった。お前のお披露目の後、話を進めていくからそのつもりでいなさい」
「…結婚なんてしない!」
そう強く叫ぶと、お母さんが私へ顔を上げてきた。
「柚花、いいかげんにしなさい」
静かな口調で、どこか冷たさ感じるその声。
まるでお母さんは人形ね。
いつもそうやって一歩引いては私たちを眺めてる。
あなただって、私と同じ立場にいたんでしょ?
男に恵まれず、姉妹で育ち、そして長女であるお母さんがしきたりに従い、お父さんと結婚したんでしょ?
だったら、私の味方になってくれてもいいじゃない!?
お母さんも男に恵まれない、それがわかったときから何度も聞かされてきた。
大河内屋は女系で悩まされた時期があり、繁栄を滞らせたくないがゆえに、ある代の当主がしきたりを作ったと。
それは、女しか生まれなかったときのためのもので、その度に代々受け継がれてきたって。
『男に恵まれなかった場合、長女である者が二十歳になるそのときに、当主が選んだ者と契りを』
『当主が選ぶ者とは、大河内家の名を汚さず、さらなる繁栄を絶対とさせる者であること』
そして今、それは私の身に。
「…絶対、従わない」
一度呟き、そしてテーブルをバンッと強く叩きつけた。
「私は、従わない!」
次に大きな声で訴えた後、勢いよくダイニングルームから出ていった。
後ろからいろんな声が飛び交っていたけれど、聞く耳持たずにひたすら足を運んでいた。
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