第1話

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逃げるものの心の鉄則。後ろを振り返ることなかれ。 私はひたすら前を向き、走ることだけに尽くしていた。 細かい路地に入っては、さらに路地へと曲がる。 まさに全力全身だった。 どこまで走ってきたのか、辺りはすでに見たこともない場所だった。 路地の隙間に隠れてしゃがみ込み、息を整える。 「ハァ…、ハァ…、ハァ…ッ」 そして、そっと顔を出しては回りの様子を伺った。 落ち着いた空気が広がってることに、少し安堵した。 せっかく誰にも見つからずに屋敷を出たっていうのに…。よりにもよって坂本に会ってしまうなんて。 長年屋敷の様子を調べていたけど、最後まで唯一わからなかったこと。 それは、坂本の1日の行動だった。 屋敷に居ないと思えば居たり、さっきまで居たはずなのに居なかったり。 まさか、こんなところで痛手になるなんて。 あんなところでいったい、何をしていたの? いや、そんなことはどうでもいい。 坂本のことだ、きっとすぐに屋敷に戻ってお父さんに報告するだろう。 恐らく、警察には連絡しない。お父さんが事を大きくしたがらない人だから。 家の者たちで私を探すか?あるいはどこかに応援でも頼むだろうか? これを機に、私を見捨ててしまえばいいのに。 そこまで考えて、大きく息をついた。 お父さんは、しきたりが絶対だ。意地でも探し当ててくるに違いない。 せめて、来月のお披露目までは逃げぬかなければ…。そうすれば、結婚がなくなるかもしれない。 何か、変わるかもしれない。 ほんの少しの可能性を胸に、私は立ち上がった。 さらに辺りを見渡し確認して、そこからゆっくり離れ出す。 腕時計を確認すると、すでに1時を回るも、30分過ぎたところだった。 今までにないくらい、長い1日になりそうだ。
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