第1話

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日は登り、私は行く道行く道何人もの人とすれ違っていた。 すでに所持金で服を新しく買い揃え、着替えを済ませた。 ジーンズはそのままで、チェックのシャツワンピにニットのカーディガン。 キャップは脱いで、下ろしていた長い髪の毛をポニーテールに。 いくら夜とはいえ、坂本に格好を見られていてはそのままでなんていられない。 逃げることに、必死だった。 歩いても歩いても全く知らない場所で、私はすでに、今どこにいるのかもわからなくなっていた。 でも、かえってこの方がいいのかもしれない。 無駄に土地勘を持っていると、安心感へ流れてしまう可能性だってある。 ひたすら歩いたところで、足に疲れが出てきていることに気がついた。 1日休みもしないで歩き回っていれば、そうなって当然か。 できれば公共手段を使いたくなかったけれど、屋敷から離れるためなら致し方ない。 そう割り切って、すれ違い様に近くに駅はないか尋ねてみた。 「ここをもう少し行けば、錦糸町駅が一番近いよ」 その返事をもらっては礼をして、教えてもらった道のりを行った。 駅までようやっとたどり着き、いざ切符を、と思ったんだけど。 …あれ?切符ってどうやって買うの? 辺りをキョロキョロ見渡した。 誰かに尋ねた方が早いと判断した私は、またもすれ違い様の人に声をかける。 なんとか切符を手にして改札口を通り、電車に乗ろうと歩き出した。 少ししては、またもその場で立ち止まる。 …ちょっと待って、どの電車に乗ればいいの!? 深いため息をついた後、顔を上げてさらに声をかけようと辺りを見渡した。 制服を着ているのは、駅員さんだろうか。 「すいません、あの、私、どの電車に乗ればいいんでしょうか?」 「…行き先はどちらですか?」 え?行き先? 私は慌てて切符を見つめた。 「あの、千葉です」 「ああ、でしたら総武線ですね」 「…ソウブセン…?」 不思議そうに尋ね返すと、駅員さんは私の顔をじっと見つめてきた。 …やだ、あまり顔の印象を相手に残してはいけない。 なるべく早く会話を終えなきゃ。 無駄な会話をしないようすぐに教えてもらい、やってきた電車に乗り込む。 昼間だというのに、けっこうな人の数だった。 しばらくして空いた席に座り、しばしの休憩。 窓から見える外の景色を見つめながら、心の中は悔しさでいっぱいだった。
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