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「ねぇ!どこに行くの?…和馬ってば!」
和馬に手を引かれ、水溜まりを避けながら車の行き交う伏見通へと歩き続ける。
「ん?タクシー乗り場」
「タクシー乗り場?」
颯爽と歩く彼の背中から、目の前に見えるタクシー乗り場に視線を移した。
標札の前には、タクシーを待つ人が3人並んでいるのが見える。
「どこかに行くの?…」
「いや。綾子の逃げ道の確保をしに」
「はぁ?意味が分かんないんだけど!」
急にギュッと強く握られた手を見つめ、顔をしかめる。
乗り場に近付くと、和馬は足の早さを緩め私に視線を落とした。
「俺はお前を寮に送って行かない。帰るならこのままタクシーで帰れ」
そう言葉を放つと、財布から1万円札を取りだし私に差し出した。
「…えっ?」
私は、呆然とした表情で差し出された紙を見つめる。
「これで足りるだろ?ほら、早く受けとれって」
和馬は繋いだ手を離し、私に福沢諭吉を2枚を握らせると列の最後尾に並ばせた。
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