新たな選択

2/10
485人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
「ねぇ!どこに行くの?…和馬ってば!」 和馬に手を引かれ、水溜まりを避けながら車の行き交う伏見通へと歩き続ける。 「ん?タクシー乗り場」 「タクシー乗り場?」 颯爽と歩く彼の背中から、目の前に見えるタクシー乗り場に視線を移した。 標札の前には、タクシーを待つ人が3人並んでいるのが見える。 「どこかに行くの?…」 「いや。綾子の逃げ道の確保をしに」 「はぁ?意味が分かんないんだけど!」 急にギュッと強く握られた手を見つめ、顔をしかめる。 乗り場に近付くと、和馬は足の早さを緩め私に視線を落とした。 「俺はお前を寮に送って行かない。帰るならこのままタクシーで帰れ」 そう言葉を放つと、財布から1万円札を取りだし私に差し出した。 「…えっ?」 私は、呆然とした表情で差し出された紙を見つめる。 「これで足りるだろ?ほら、早く受けとれって」 和馬は繋いだ手を離し、私に福沢諭吉を2枚を握らせると列の最後尾に並ばせた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!