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「もう少しよ!……息んで!……母親教室に通って、呼吸法を習ったんでしょ!」
産室の掴まり棒を掴んで、息む女性
「……んーっ!……ひっ…ひっ…ふーっ!…ひっ…ひっ…うーっ!…ひっ…あーっ!」
助産婦が声を更に上げて、妊婦を励ます
「頭が見えてきた!………頑張って!…………よしっ!……出てきた!…………良く頑張ったわね!……可愛い女の子よ!」
取り上げられた赤ん坊は、鼻に細い管を入れて呼吸を促すと、元気な産声を上げた
「元気な声だねぇ…あんたの旦那…奎(けい)ちゃんも、地声が大きかった」
母親になった女性に赤ん坊を見せ、すぐに助手に渡し手早く体を洗った後、白いタオルで包(くる)まれた赤ん坊を、彼女の胸に置いた
「奎ちゃん…見てる?…この子、あんたにそっくり…スクスク育てるから…片親だからの言葉に負けない様に……だから見守ってて…上から……『天国』から」
1980年代
産院で出産して1ヶ月で、女性は店を開けた
『 小料理屋 葉月 』
この店の女将、青柳美沙子(あおやぎみさこ)
彼女の夫、青柳奎太(あおやぎけいた)は、この世に居ない
半年前に交通事故で亡くなった
魚市場の帰り、車の通りが少なかった為か、ドリフト走行をする若者の運転に跳ねられ重体だったが、美沙子に看取られ息を引き取った
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