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恋人は青子はボーカロイドが好きで、パソコンには青い髪のボーカロイドのソフトが入っている。
元々、作曲が好きな青子はよく動画サイトに自分が作っていた曲を出していた。
それだけじゃない。僕が経営している喫茶店に決まった時間でボーカロイドの曲を流していた。
「もー! こら、青子!」
店の奥に行くと、青子がパソコンを手に作曲をしていた。
「勝手に曲を変えちゃダメって言っているじゃん!」
「待て、紅葉。いま、サビを作成中だ」
「もー!」
パソコンから目を離さない青子はカタカタと綺麗な指を動かす。ピアノを弾いているみたいに。
こうなったら青子はお腹が空くまで絶対に止まらない。ため息をつき、僕は店に戻る。
僕は鬼城紅葉(おにがしこうよう)。鬼の城と書き、「おにがし」という。珍しい名字で、本当にこんな字があるのかと言えばどうなのかわからない。妹の携帯の変換機能には一発で、鬼城と出てきた。謎だ。
さて、僕は五年前にこの町へやって来た。夢であった喫茶店をやること。しかし、僕の実家はこれまた珍しいことに世襲制の清掃業で、長男であった僕は必然的に後を継がなければならなかった。最初は長男だから夢を諦めようとした。でも、諦めることはできず、家族。特に母さんに夢があるから家を継がないと言って、家を出てきた。
(その時、母さんは猛烈に反対して、僕を引き留めようとしていた)
「はぁー」
思わずため息が出てしまった。家を出て以来、実家には一度たりとも帰っていない。
僕には弟がいた。僕の代わりに家を継いでくれるだろうと思っているのだが、なかなか帰りにくい。
なにせ、母さんと喧嘩をしたままだ。顔を合わせにくい。
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