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もそりと、黒いそれは半分だけ起き上がった。数瞬の間そのままの状態になり、次に周りに骸骨面を巡らせる。骸骨面は二人の少女を見付けると、骸骨面の向きを二人に固定したまま微動だしなくなった。
「あ、起きたっスか? じゃあ宿帰りましょう。そしたら集めた情報を交換して作戦会議っスよ」
「ご飯」
「そうっスね。今日のオススメ定食が楽しみっスね」
「この世の牛乳を飲み尽くす」
「牛乳は骨を丈夫にするだけで背は伸びないっスよ」
「骨が硬くなる。つまり、伸びて細くなっても大丈夫」
「そうっスね」
自分の理屈を頑なに主張する藍色の少女に、若干面倒になった橙色の少女の言葉は投げ遣りになった。
そんな時だった。橙色の少女の左側、つまりベンチがあった方から何か重い物が落ちたような音がした。
橙色の少女と藍色の少女がそちらに目を向けると、――黒い骸骨面の芋虫がいた。
「……なに、してるんですか? ハサウェイさん」
「……」
橙色の少女が顔を引きつらせ、藍色の少女は半眼で黒い骸骨面の芋虫を見ている。
そんな二人の少女の視線を受けながら黒い骸骨面の芋虫は芋虫運動をして恐るべき速さで前進していく。
「キモッ! じゃない、ハサウェイさん!? 貴方まさかとは思うっスけどその状態で宿に突撃する気っスか!? 聞いてるっスかハサウェイさ~ん!!」
「速い」
「マイペースに感想言ってる場合じゃないっスよ! このままじゃ宿の中が阿鼻叫喚の荒らしっス! 最悪宿が無くなるっス! 追い出される的な意味で! 行くっスよ!!」
季節は秋。夕方でもう既に手がかじかんでしまう、そんな季節に追い出されては堪らない、と橙色の少女は藍色の少女を脇に抱えて魔獣黒い骸骨面の芋虫を追い掛ける。
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