第一話[勇者の旅立ち]

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「ふぅ。すっきりした」 ぴくぴくと痙攣している栗色の少女を尻目に、赤色の少年はビーカーに紅茶を入れ一息ついていた。 「あぅー。痛いですよぅ。一体なんの実験してたんですかぁ? 先輩がそんなに怒るなんて珍しいですね」 顔だけを動かして赤色の少年を見上げる栗色の少女。彼女自身、軽く驚いていた。彼女が赤色の少年が貼った実験中の紙を読めずに赤色の少年の実験を妨害してしまった事は幾度となくあった。 その時の実験が台無しに為っても溜め息一つと彼女が気にしている事を遠慮無く突つきまくる事で水に流されていた。 「あん? エリクサーの調薬実験だ」 「あぁエリクサーですか……エリクサーッ!?」 何でもないように言う赤色の少年とは対照的に、栗色の少女は酷く驚愕し、そして納得した。成る程、伝説上の薬の実験を台無しにされたら怒るのは当然、だと。 そんな栗色の少女の考えは赤色の少年の次の一言で完全に吹き飛んだ。 「まぁ実験自体はどうでもいい」 「は、はぁーーー!?」 「うるさっ! 実験よりも問題は材料の方だ」 赤色の少年は、先程ただの水に成ってしまった液体を見ながら自分の赤い髪を掻きむしり、溜め息を吐いた。 「その液体は何ですか? ぱっと見ただの水ですけど」 「月面草の蜜だった水」 さらっとまた伝説級の単語が出てきたが、今回は色々と諦めた栗色の少女は気まずそうな顔に成った。 「それは何処で?」 責任感と罪悪感の二重責めで意気消沈しながら蚊の鳴くような無理矢理絞り出した声で聞くも、赤色の少年はいつの間に取り出したのか、古びた手帳をぱらぱらと捲っている。 「貰い物だ。が」 ぱたん、と手帳を閉じる。 「既に入手方法は研究済み。行くぞ助手よ! 月の観測だ! 外へ出るぞ!」 「えぇ!? 今早朝ですよ? 外寒いですよぅ室内でしましょうよぅ」 「毛布と紅茶」 「さぁ行きましょう先輩! 暖かい毛布とほかほかな紅茶が待っています!」
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