第1話

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保育園に延長依頼の電話をかけると、 「芹南ちゃん、病み上がりなんですよ?」 と、 快い返事を貰えないまま、 それでも七時までの保育をお願いした。 「何時まで やれるんだ?」 やることは、マドレーヌだけではない。 私に小さい子どもがいると分かってはいても、 山岡工場長も、数少ない従業員に残業を強制しなくちゃいけない心苦しさはあるようで 「六時半までしか出来ません」 「助かるよ!帰りに形の悪いマドレーヌ、娘に持っていけよ」 と、いつもより、優しかった。 焼き上げ、冷ましたものを包装工程に運び終わる頃、 タイムアップとなる。 「佐藤、冷蔵室の試作タルトも持って帰りな」 タイムカードを押して、急いで車へ向かおうとした私に、 更にお土産を持たせようとする工場長。 ハッキリ言えば、 土産より、一分でも早く帰らせて欲しかったのが本音だったのだけど、 「ありがとうございます」 ボンビーな母子家庭、 ″ 貰える物は、貰っておこう ″ と、パパッと冷蔵室に出入りするつもりだったのに、 「タルト……タルト、あ、これか」 ビニールに数個入ったそれを見つけて、手を伸ばした途端に、 パチッ!! と、 冷蔵室の照明が消されてしまった。 「えっ?!」
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