骨董屋

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明くる日目が覚めた時には既に静佳の姿は無かった。 静佳は夜の女だ。開店前の早い時間も客に呼び出されれば苦にもせず出掛けていく。そして当然のように毎晩同伴をした客とホテル街へと消えていくのだ。 彼女は店で常にトップをキープしている。月の収入は僕なぞの半年分以上に相当する。 そんな彼女が、初めての来店客であった僕を勝手に見初めて勝手に世話をしている。 女王様気質というやつか。犬猫を拾ってくるように男を拾い世話をする事で支配欲を得られる、ある意味得な性分なのかもしれない。 そして僕のような感情の薄っぺらい人間こそが、そんな彼女の性癖を充分すぎる程刺激するらしかった。 『全部の男があんたみたいに、楽に遊べるヤツらだったらいいのに。』 僕達の最初の夜に静佳が発した台詞だった。 自慢の白い身体を三流役者よろしく大袈裟にくねらす彼女の下で、僕が無表情に発した返事は 『そうだね。』 ただそれだけだった。それだけで彼女は、生まれたての赤子のように頬を染め、うっとりと恍惚の表情を返してみせたのだ。 それから彼女は僕にこの2Kの薄汚れた箱庭をあてがい、気紛れに寝泊まりをしている。 付き合っている訳でもない恋愛関係とも程遠いような半同棲生活。単なる身体だけの関係と言ってしまえばそれまでなのだが。 愛や恋など何の価値を見出すというのだ。所詮は互いを利用しあうだけの美辞麗句にすぎない。 僕には何の不満もなかった。ただ息をして毎日自身の生を確かめる。それ以上もそれ以下も特段求めようという欲求を持ち合わせていなかったからだ。 そんな毎日の中に この店のチラシが天使の羽の如く舞い込んだのだ。 藁半紙は午後の生温い光りを纏ってそこにあった。 何の変哲も無かった僕の日常が変わるかもしれない。 そんな事は欲している訳でもない。あわよくば隣の芝生を覗けるかもしれないと期待する野次馬的な感情のみが僕を揺り動かしていた。 電源をオフにした携帯電話もそのままに、見えない釣り糸に操られる木偶のようにチラシを掴むと その場所を目指すべく、僕の右手はドアノブの曇った不協和音を響かせていた。
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