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「この、言わせておけば!」
秋山は駆け寄り、座っている私の胸倉を掴んだ。右手は拳を作り、振り上げている。
「……殴るの? 放課後のお仕置きで、とんでもないことになるわよ? いいの?」
目を細め、鋭く睨んだ。秋山はその目線に、拳が怯んだ。
「みんなも、こんなことをするなら猿田先生に言うわよ? もう私、我慢することを止めたんだから!」
秋山はそれでも、ギュッと鎖骨辺りで掴んでいる手を、放さなかった。
「……止めなよ……秋山君」
江藤は下を向き、ボソリと呟いた。まるでサファイヤに問いかけているようだった。
「江藤まで……お前は曜子が好きだったんだろ? あいつの気持ち、一番分るだろう? いつも一緒にいた、お前までそんなふうに言うの?」
「曜子さんは大好きよ。亡くなった今でも親友だと思ってる。でも秋山君……猿田は怖いよ」
下を向いていた暗い顔が上を向き、心配そうな表情で秋山を諭した。
「くそ! 虫けらが!」
洋服を掴んでいた手が放れ、私は解放された。こんなに効果があるなんて、目にするまで実感が湧かなかった。
だが、これで分った。力は本物だ。
「秋山、今は止めときなよ。なんだか様子が変だよ」
「はぁ? まさか麻美までが、そんなことを言うとはな! みぃーんなして、俺を裏切るとはな? ほんと、とんだお笑い種だぜ」
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