優しくしないで

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「あ、…すいません」 私は、社長の持ってるコートとバックを手に取ろうとして、社長に近づいた。 まさか、社長が持ってきてくれるとは思わなかった…。 どうしよう…。 さっきまで冷静に涼太と話せていたのに、胸がざわつき、動揺しはじめる。 「なる」 社長が私の名前を呼ぶ声は、とても柔らかい。 心臓の音が、だんだん大きくなってくる。 「大丈夫か?」 …ダメ。何も聞かないで。 「少しは落ち着いたか?」 …今の私に、優しくしないで…。 さっきまで溜め込んでいたものが、一気に目からポロポロこぼれ落ちてきた。 やだ! 泣いちゃだめ! 慌て両手で顔を覆った。 「…うっ…っ」 どうしよう…。 溢れだしたものは、簡単におさまってくれない。 社長はきっと、面倒に思うはず…。 はやく落ちついて、顔をあげて。 顔を覆いながらも、社長が動く気配をかんじた。 と同時に、私はふわっと社長の腕に包まれるのがわかった。 「なる。…何があった?」 社長の声が、私の耳元で優しく響いた。
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