優しくしないで

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私が戻ってこないのが気になったのか、涼太の声がする。 「なる?誰だ?」 その声に、社長の腕の中で私はビクッとした。 「社長、すいません。持ってきてくれてありがとうございました」 そう言って、急いで社長から離れ、顔を手で拭った。 社長を見ると、視線は私の後ろへ向けられている。 なんて最悪な一日なんだろう…。 こんなところを、よりにもよって社長に見られるなんて。 「こいつ、誰?」 私の隣にきて涼太が聞いてきた。 「そんな聞き方しないで。私の会社の社長なんだから」 「なんでわざわざ社長さんがなるの家に来んの?」 もう涼太には関係ない。何もしゃべりたくなかった。 「涼太と話すことは何もない。早く美雪さんのところに帰れば?」 私は涼太をまっすぐ見た。 また、私の右目からひとつ、ポロリとこぼれ落ちる。 涼太に泣き顔は見せないって思ってたのに…。 荷物を手に持ってきてたのか、そのまま靴を履きはじめる涼太。 そして、社長とすれ違う。 何も言わずに、玄関から出ていった。 ドアがバタンと閉まった。
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