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秋蚊
蚊が飛んでいる。
姿はまだ見てないが、あの独特な音が聞こえるからそう遠くはないはずだ。
別段、蚊を気にするような性格ではないんだが、今ばかりは何故か気になったんだ。
そんなことを考えていた俺の目の前に、とうとう蚊が現れた。奴は平然と当然のように、俺の腕にとまる。
とまった直後に俺の腕を刺して血を吸うのが、この蚊というやつだ。
ぺちん。
…と、気の抜ける音がして、手のひらの一部が赤くなった。赤く濡れた部分には、黒い欠片がこびり付いている。俺はそれを見て…。
「モノローグが長ぇんだよ!」
家に遊びに来ていた友達(智)に怒られた。
「何を一人でぶつぶつ呟いてんだ、怖いわ。ほら、あったぞ、蚊取り線香」
「さーんきゅー」
一応俺の家なんだが、既にしまわれた蚊取り線香を取ってきてくれた上に、それにさっさと火をつけてくれる智…さっすが俺の幼なじみ!
「落ち葉が見えるのに蚊取り線香つけるってのは、なんかちょっと変な感じだな」
早速蚊が一匹落ちるのを見ながら、智はぽつりと言い出す。俺も確かにそう思うんだが、実際蚊が飛んでるんだからしょうがないという思いもある。
俺はふと思い出したことを智に告げる。
「そういえば、こないだ田舎からスイカもらってまだ残りがあるんだが、食う?」
「今は夏かよ!カレンダー見ろよ、そろそろ十一月だぞ!?」
さっと目をそらした先には、ちょうどカレンダーがあって…既に親によって十一月にされているのが目に入った。
「じゃあスイカバー食うか」
「秋らしいものはないのかよ。別にスイカだろうとスイカバーだろうとなんでもいいけど」
背後から溜め息混じりの声が聞こえたが、智の声を聞く前にスイカバーの封を開けてしまったので、今食う物はスイカバーに決定されている。
「ほい、スイカバー」
「ん。…投げるな!」
袋から出したのを投げたら、叫ばれた。そしてべちゃっという音と共に、スイカバーは智の手に落ちた。
「うわぁ最悪。せめて封を開けずにくれよ」
「すまんて」
そんな他愛もない会話をしていた会話の合間に、智が突然口を開いた。
「お前ってさー…」
「そういや一昨日…あ、何?」
「血ぃ吸われたら、やっぱ嫌か?」
「血?…あ、蚊のことか?」
智はそれに何か言いたげな目をしたが、次の瞬間、いきなり咳き込んだ。
「げほっ…」
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