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「大丈夫かっ?もしかして蚊取り線香の煙、駄目なのか?」
たまにいるもんな、そういう奴。俺も普段は蚊取り線香なんてめったにつけないから知らなかったけど。
智の返答を待たずに、俺は蚊取り線香を台所に持って行く。ここなら扉を閉めれば俺達の方に煙も来ないだろうし、後で台所の蚊が減るだろうから一石二鳥だ。
「あー、なんかごめんな。せっかく蚊取り線香使ったのに」
「いやいや、先に煙駄目なこと言えよ。お前が持ってきて火つけるとか…」
ぐちぐちと色々文句を言っていると、智がほんの少し吹き出して、「ごめんごめん」などと言い出した。
「…そんで、なんの話してたんだっけか?」
「いや、うん。もういいよ」
苦笑しながらそう言う智に少しイラッとする。俺、中途半端なの嫌いなんだが…。
「もういいって…智、お前」
「あ、蚊」
ぺちん。
条件反射で智に指された腕に手を振り下ろす。蚊は俺の手から逃れていて、悔しい思いをする。叩き損だ。
「ほらほら、また指されるぞ」
けらけらと笑う智に恨めしげな目を向けて、俺は蚊と格闘するはめになった。
結局、智の話は聞けずじまいで、十一月を迎えた俺だった。
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