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キミのが欲しい
「唐突だけどさ、キミの目が欲しいんだ。
…あぁ待って待って怖がらないで。何も今すぐって訳じゃないよ、ボクはそんなに酷い奴じゃないから。
ゆっくり、ゆっくりと、キミが気付かないくらいゆっくりと目をもらうから。それだったら良いよね…?良いと言わせるから、良いよね?
ボクは何もないんだからさ、それくらい…――」
私はそこで飛び起きた。息が乱れていて、寝間着は汗でびっしょりと濡れていた。
「…夢、に決まってるよね」
悪夢とは正にこういうことをいうのかな、なんて一人呟く。
その日はもう眠れず、朝まで何かに怯えながら起きていた。
その後の私に何もなかったから、あれはただの悪夢だったんだ…と私はホッとした。
異変が起きたのはそれからしばらく経ったある日の午後、ふと気付いた。
「…あれ?」
今日、気になる本を買いに本屋に来たのだけれど、普通に平積みされている本の表紙が見えない。正確には、タイトルなどの字が見えない。最近暗いところで本を読んでいたから、目が疲れているのかな?
外を歩いている時も、少し遠くの看板が見えなくなっていた。
日常生活に多少の支障が出てきた頃、私は眼鏡を作った。よく…ではないのだけれど、前よりは見えるようになった。
「おかしいな…」
「どうしたの?大丈夫?」
ついには偶然会った友達にまで心配される始末。
眼鏡をかけても霞む視界に、私はじわじわとあの日の悪夢を思い出していた。あれは夢ではなかったんじゃないのか…そう思う日々が続く。
ある日の朝、恐れていた事態が起きた。目が覚めても視界が黒いままで…とうとう、私は目が見えなくなっていた。
「ありがとう」
「っ!?誰、誰なの!?」
「嫌だなぁ、ボクを忘れたの?ああ、ゆっくりだったからかな…だったら仕方ないね」
目の見えない私には、その声の主が見えない。
「目をありがとう。おかげでボクはやっとキミが見れたよ。
物は相談なんだけど、もう一つ…キミの声をボクにくれないかな?今度はゆっくりできないから、今もらっちゃうけど」
「な、なにを…――」
誰かの笑う気配がした次の瞬間、私は声が出なくなっていた。その誰かに対する思いは、この一瞬にしてすべて恐怖で塗りつぶされる。怖い、ただ怖い。
「あぁ…、ごめんね。…ボク、今度はキミの身体が欲しいなぁ…?」
私の耳に届いたその声は、紛れもなく私の声で…。
私、は――
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