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皆は一瞬、私の方を向いて、すぐにその子の方を向いた。
「うん、そうだね」
その子はにこりと笑いながらそう言って、こっちの方に向かう。
私は席を立ったまま、今し方自分が座っていた席の机に鉛筆で文字を書き込んだ。
『返して』
そのまま机の横に立った私には目もくれず、その子は席についた。私がいた席に。
そうして机に書かれた文字を見て、すぐに消しゴムでその文字を消された。
「返して?」
クスッと笑われた。もうすでに文字は消しゴムで綺麗に消されている。
私は、その子を…いや、その親友を睨んだ。
「返してって、おかしいよね。変だよね」
親友は、先月死んだ。死んだはずだった。私は親友がいなくなって寂しくて、何度も親友の幽霊に会いに行った。
いつだっただろうか、ある日、私達は入れ替わった。私が生きていたのに、親友が生きていたことになった。親友が死んでいたのに、私が死んでいたことになった。
幽霊となった私は、学校から出られない。きっと親友がそうだったからだろう。
以来私は、不登校気味な親友の席に座って、親友が来るのを待っていたのだ。
「わたしは、貸したものを返してもらっただけなのに」 …え?
「ねぇ?わたしは何で死んだと思ったの?」
親友は小さな声で、笑いを噛み殺すような声で、私に聞いた。その質問に、私は答えられなかった。
分からない。分からないのだ。親友がどこで死んだのかも、どうして死んだのかも、全部、分からなかった。
「全部逆だよ。わたしが死んだんじゃなくて、わたしが入れ替わって生きているんじゃなくて…。最初からわたしが、生きていたんだよ」
目の前が真っ暗になる。親友の言うことが信じられなくて、でも親友が言うことに納得してしまって、私は親友を見ていることしか出来なかった。
「だからさ、これは何一つおかしなことじゃないんだよ」
そう、なのかな…いや、そうなんだ…親友が言うんだから、そういうことだったんだろう。
だからだろう。だから私は、小さな声で笑う親友がぽつりと呟いた言葉が、何と言っていたのか解らなかった。
「嘘、だよ」
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