ガラス越しの世界

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ガラス越しの世界

 わたしはガラス越しに、世界を見ていた。  目を覚ませばいつもと変わらないガラスの部屋。見上げれば鉄の天井、他はすべてガラスの壁と床。  移り変わるガラスの向こう側だけが、わたしの世界。  わたしの部屋に、景色はなくて、ガラスの向こう側は、いつもきらめいていた。比喩でもなんでもなくて、見た時はいつもきらきらと輝いていた世界。  このガラスが壊れたら、あるいは、あの天井が開いたら…わたしはどんなに幸せだろうか。あのきらめく世界に入ることができたなら、わたしはどんなに楽しいことだろうか。  けど、それは叶うことのない夢。  毎日のようにわたしは色々な所に運ばれて。わたしは色んな人に会わされて。会ったって一言も言葉を交わさずに、ただ相手が一方的に何かを言うだけ。 いくらだ、とか。高い、とか。だけど、とか。それならば、とか。わたしには分からないことばかりだ。  わたしは、ガラスの向こうを見つめるだけで、ただそれだけしかできないのだ。  どうしてこうなったんだろうか。昔は、わたしの周りにはたくさんの友達がいた。皆仲良くしてくれて、色んなお話をしてくれて…なのに、いつの間にかわたしは、一人きりでガラスの中にいた。  ある日、わたしは突然自由になった。  わたしが入っていたガラスが壊れて、ガラスの外側に出れたのだ。  嬉しかった。ずっとガラス越しの世界だったのに、今見てる世界には障害も何もない。  嬉しくて、苦しかった。  息ができなくなって、誰かに持ち上げられた途端に、身体が焼けるように熱くなった。  それでも、わたしの目の前に映る外の世界は、とても素敵で、綺麗で、きらめいていた。
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