ジェイク・ルーニーの章

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「ちょ、ちょっと。話が違いますがな」 「話? 誰と誰との話だ」 「あっいや、大じ……何でも、ありません」 ジェイクの鋭い眼光に店主はそれ以上何も言うことはなく、店の従業員達もただ運び出される商品を黙って見送るだけであった。 商人から半ば強制的に買った飲み水や氷さらには食糧は、各医療所に配られ、お陰で熱中症の被害は最小限にとどまった。 ―翌日― 「がはははっ!」 ジェイクの野太い声が響き渡る。 「それにしても半値とは、さすがにやりすぎであろう」 ムーアが盤上のチェスの駒ナイトを前へ動かす。 「何を言うか、あんな悪徳商人の品など、タダでも良かったぐらいだ。なぁルイス」 ジェイクがビショップでムーアのルークを取る。 「はい。店主のあんぐりとした顔は、忘れられません」 ジェイクの横に立つ若い兵士ルイスの表情は明るい。 「チェックだ」 ナイトがビショップを倒す。 「何!! ちょっと待て」 ジェイクが慌てて、盤上を覗き込んだ。 「ダメだ」 「くっ!」 たかがチェスで頭を抱えるこんなジェイクの姿をいつも間近にいる火竜騎士でも見たことはないだろう。 いつも自信と威厳に満ちた火竜将軍は、この黒竜将軍ムーアの前では、『ただの男』でいる。 ルイスはそう思った。 「旦那様、大変です。たった今、突然ミケルス大臣様がお見えになられました」 「あん? ミケルス大臣殿が何の用だ……。マーサに任せる。適当に待たせておけ」 「え? 大臣様ですよ」 「あいつは好かん! ムーアもう一勝負だ!!」 ジェイクはそう言って再びチェスの駒を並べ始めた。
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