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結局あれからチーズタルトを完食するのに二日もかかってしまった。
もう二度とホール食いはすまいと心に誓ったものだ。
思えば、大クリスマス会を開いてみようと思ったのも、チラシに載っていたチーズタルトを丸ごと食べてみたいという、子供じみた思いつきがきっかけであった。
あれから何回かクリスマスを過ごしてきたが、今だにあれ以上何かを感じた夜は無い。
そういう意味では、時には馬鹿みたいなことも必要なんだな、と今となっては思う。
若い内にしか出来ないことだから。
そう今となっては…
「ハハッ……」
自嘲気味に嗤うと、俺は灰皿に吸い殻を押し付けた。
今年の冬は随分と暖かい。
ベランダにYシャツ一枚で出ても少し肌寒いくらいだ。
コンコン、とガラスを叩く音。
振り返ると、彼女がそこに立っていた。
指でOKの形を作っているのを見ると、準備が出来たのであろう。
俺は出しかけた二本目の煙草を急いで戻すと、部屋へと足を踏み入れる。
テーブルには彼女の作った料理が所狭しと並べられている。
腕によりをかけて作ったの、と彼女。
既にグラスにはシャンパンが注がれていた。
明日は休みだし、アルコールを気にする必要はない。
向かい合わせに座ると、何だかお互い照れ臭くなって微笑みあってしまった。
と、私はふとテーブルの真ん中にある物に気がつき目を丸くする。
そこにはチーズタルトが。
あの日の物よりも一回り小さい。
彼女は悪戯っぽく微笑んでいる。
そういえば、あの話も一度か二度したことがあったっけ…
フフッ、という笑い声に気を戻すと、彼女が私を見つめていた。
そう、私はあれ以来の何かを感じたクリスマスイブの夜は一度も無い。
恐らく今夜が、それを更新する記念すべき第一夜となるのだから。
私たちは自然と同じタイミングでグラスを取り、軽く小首を傾げ合う。
そして重なる二人の声。
それは鈴のように聖なる夜へと響いていった。
「メリー・クリスマス」
【FIN】
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