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レスポールっていうのは女のくびれみたいな形をした、重くて弾きにくい部類のモデルだ。値段も当時はお高めで、ガキンチョの俺が持つには色々と不相応な代物だったのだが、結論から言えばそんなことはわりとどうでもよかった。
俺はそのレスポール一本で、一気に技巧派ギタリストへの道を駆け上がっていったのだ。自分で言うのもなんだが、あの日の俺の活躍はめざましいものであったと思う。何しろ同級の中高生を軽々超え、夜間クラスのおっさん達に感心されてる間に、講師すら追い抜きそうになったくらいなんだから。
中学になって軽音楽部に仮入部すると、俺はたちまち有名人になった。同級生にも上級生にも『うちのバンドに入らないか』と誘われ、調子に乗って三組ほど掛け持ちしたこともある。まぁ当然、この頃は有頂天だった。両親や親戚、特に親父に持て囃された俺がミュージシャンを目指すようになったのも、確かこの時期からだったはずだ。
勉強を真面目にやる気は毛頭なく、進路は芸能系の私立専門学校に決まった。誰にも反対されず、入学試験は事前の緊張が吹き飛ぶくらい生易しいのも手伝って、俺の受験は極めて自動的で順調だった。必死に勉強してる同級生が心底哀れに思えたくらいだ。
中学生として過ごす最後の日、卒業式のしおりの裏に印字された進路一覧の中に『専門高等学校 一名』という一文を見つけた時なんて、とんでもなく気持ちがよかった。頭の中の俺は既にBUMP OF CHICKENとかL'Arc~en~Cielに並ぶくらいの国民的ミュージシャンだったし、同級生の奴らはひたすら勉強して、大学入って、会社に勤めて、結婚するという普通の『つまらない人間』になっていた。そういう風に勝手になっていて、勝手に優越を感じていた。俺はお前らみたいなクソつまらない人生を送ったりはしないんだ、と内心彼らを嘲笑っていたのだ。
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