ボタン

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 ブラウスのボタンが1つ、はじけ飛んだ。  ぽっかりとだらしなく開いた4つ目のボタンの位置に、じくじくと染みが広がっていく。  途端に私は、ようやく理解した。胸の内をぐるぐる渦巻いている不可解な感情との接し方について、私は、ようやく。 ――大丈夫。やっぱりこれでよかったんだわ。  私は思うがまま、晴れやかな気分で実行する。あの人との幸せな生活をスタートさせるため、邪魔な障害物を排除するのだ。  そう、あの人のために。そしてなによりも、私自身のために。  それにしても、なぜブラウスのボタンがはじけ飛ぶだなんていう小さな出来事に気が付けたのか、我ながら不思議に思う。  不思議には思うけれど、とにもかくにも、ブラウスの4つ目のボタンがとれてしまっていて、すっかりみすぼらしい格好になっている、というのが現状だ。 ――ああ嫌だ。  私はブラウスの4つ目のボタンがないということに、苛立ちを覚えた。 ――なんて格好悪いの。これじゃ、みっともなくてあの人に会わせる顔がないわ。  ただ、ブラウスのボタンがはじけ飛ばなかったとしても、こんな状況ではおちおちあの人に会うことなど出来ないような気もする。  なぜなら、つい今しがた押し入ってきた強盗のせいで、部屋の中がひどく散らかってしまったから。 ――もちろん、悪いことばかりではないのだけれど。  今までの私は、ぐるぐる渦巻いている不可解な感情のせいで、どうしても何処か迷う気持ちがあった。  それが、強盗に襲われてボタンがはじけ飛んだ時、その時になって初めて私は自分の素直な気持ちと向かい合えたんだから。 ――ああ、それにしてもこれはやっぱりみすぼらしい。……針と糸はどこにあるのかしら?  クローゼットを開け、中身を順繰りに取出しながら、ふと、扉に備え付けてある鏡に目が止まる。  そこに映るのは……血まみれで、腸やら何だかよくわからない臓物のかけらやらを髪や顔や服のあちこちにくっつけていて、4つ目のボタンのとれているブラウスを着た私……。 ――なんて格好わるいの!
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