ボタン

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「まったく、油断もすきもないったらありゃしない」  ボクの上にどっかりと乗っかった何かが、ふにゃーとあくびする。 「あたしのテリトリーから何を持ち出すつもりかと思ったら……大丈夫かい?」  何かはするりと動いてボクの上からどいた。 「あたしゃ猫のミーちゃんだよ。あんたは?」  ボクはフクのボタン、らしいです。 「そうかいそうかい。フクのボタンかい。なぁ、フクのボタン、あんたあの人の部屋からおっこちてきたみたいだけど、何かあった?」  アノヒト? 「あたしにミーちゃんって名前をつけた人さ。時々おいしいごはんをくれるから、人間の中ではお気に入りなんだがねぇ。ものすごい音がして、見たらあんたがおっこちてくるじゃないか。それはそうと……あんた、ひどく血のにおいがしてるよ?」  さぁ、そう言われましても……。 「ちょいとばかし、中を覗いて来ようかねぇ」  ふと思いつき、猫のミーちゃんに頼んでみる。  それならぜひ、ボクも連れて行ってください。 「おや、あんたもあの人のことが気になるかい?」  いえ、ボクが気になるのは、ボクのあるべき所のことなんです。 「へぇ……? まあ、別にかまわな……」  ワンワンワン、という吠え声と、フギャウッ、という猫のミーちゃんの叫び声がした。 「わ、悪いねフクのボタン。ちょいといやーな奴が来ちま ってね。あの人の部屋へはあたしだけで行かせてもらうよ。あんたはあんたで、他の奴に連れてってもらいな」  少し遠くから、ひどく急いだ様子の猫のミーちゃんの声がする。  どうやら猫のミーちゃんもカラス同様、ボクを置いて行ってしまったようだ。
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