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「いやー、君、まだそこにいたんだ?」
かなりの時間が経ってから、バサバサという音と共にカラスの声が降ってきた。
はい。あるべき所がどこなのかはわかったのですが、どうしても自力で動くことが出来ませんので。
「お、行くあてが出来たんだったらよかったよ。で、それってどこなの?」
アノヒトのいるアノヘヤです。ボクはそこからおっこちてきたそうなんです。
「アノヘヤ? ……ああ、あの、窓が開いてる部屋のこと? すっごく旨そうなにおいのする……」
ボクとアノヘヤは同じ血のにおいらしいのです。
「ふうん。そっか。じゃあ、ウチに招待出来ないのは残念だけど、あの部屋まで君のこと送ってあげるね」
お願いします!
カラスがボクを持ち上げた。
ふわりと地面から浮かび上がって、今度は放り投げられることもなく無事に運ばれる。
運ばれながら、ボクはあるべき所にいた時のことを思った。一定のリズムを保った、どくどくどく、という振動のこと。
時々聞こえてくる、うっうっ、という音とぽたぽた降り落ちる生暖かい水のこと……。
ボクはそれらが、恋しかった。
「心臓の鼓動と嗚咽と涙のこと? 変わったものが好きなんだね」
好き、というより必要なものなのです。だってそれがないと……。
「あ、この部屋だね……うわあっ」
どうしたんです?
「これはひどいな。君、本当にこの部屋なの?」
ヒドイ……とは?
「めちゃくちゃに荒らされてる上、部屋中が血まみれだよ。人間と猫のぐちゃぐちゃな死体があって、それから……ひゃあっ」
カラスがボクをアノヘヤに落としてバサバサと飛び立った。
でももう、ボクにはカラスのことなんてどうでもよかった。
あともう少し。
きっと、あとほんの少しでボクはボクのあるべき所へ戻れるんだ……。
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