第1話

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晴れた昼下がり。 右手には不要な65㌢のビニ傘。 左手には願を掛けた封筒を一通。 Tシャツ一枚のこの季節に、コートが必要な季節のコンサートに応募する。 ペアチケットなのだが、相手はいない。 当たれば、それを口実にお近づきになれたらなー、等と運任せの下心も込めてある。 ああ、でも… 外れても、話題にはなるかな? あまり興味なかったジャンルだけど、周りに同好の異性はいないみたいだし。 突然声を掛けたら、変に思われるかな? それでも、心を鍛えて突撃してみよう。 その為に、晴れた午後ー降水確率0%ーに傘を持って歩いているのだから。 それと、目的のポストまで徒歩で20分。 その間、知り合いに会わなければ、きっと当たる。 今のところ、正面にはママチャリが一台、遠ざかるだけ。後からは、どっかの番犬が喧しく吠えている。 幸先は良いが、まだ、5分。 次の角を曲がる必要があるけれど、その先は卒業した我が母校。まだ、知っている先生も後輩もいるだろう。 しかし!リスクを負わずに成し遂げられようか!! …いや、出来れば軽くしたい。 強気と弱気に挟まれ、日曜日に決行で妥協した。 母校のイベントは確認済み。 だから大丈夫!きっと! 上を向いて俯いて。 一歩一歩歩幅は狭く、足早に。 ヤバい、不審者だ。 いやいや、成功したビジョンを思い描け。 着たことのない親父のスーツに身を包み、 見たことからないドレスを着こなす彼女とのツーショット。 どちらがエスコートしているのか、馬子にも衣装?飼い主と犬? 少し怪しいが成功のビジョンは見えた。 意気揚々と母校を通り過ぎ、交差点を3つ越え、最大の難関、駅前ポスト。 うん。警官は良く見る人だけど、知り合いではない。きっと、知らない人だ。 だから大丈夫。 走ってゴールしたいけれど、己に課したルールは徒歩だと言いきかせる。 心臓はバクバク、息も忘れて、汗は滝の如く。 やっとゴールが見えた。封筒は汗で皺が出来た。 脇目も振らずにポストへ直進。その脇を雨がポツリと降り始め。 吃驚して目を逸らすと、見慣れた制服の彼女と目が合った。 カタンと音がして。 だけど、急な雨音が掻き消して。 雨雲を見上げて途方に暮れる彼女に、傘を差し出した。 さて、願掛けは成ったのか?
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