風呂と天道虫とサングラスと

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凛と、天を刺すように菜の花が咲いている。 赤と黒の天道虫が、天辺を目指して足をせかせか動かしている。 その様子を見ながら、私はため息を吐く。 ――虫でさえ、頂点を目指すのか 高校生になったばかりの私は、青い空と違って、陰鬱な気分だ。 『大学受験は始まっている!一つ一つのテストが、今後の人生を左右するんだ!勝ちたければ努力を惜しむな!!』 担任の第一声がこれだった。 一応進学校の部類に入る学校だけど、東大や早稲田みたいな有名大学に進学した卒業生はいないのに… 一人熱くて、バカみたい。 高校受験が終わって、一年くらいは気の抜けた生活をしようと思っていたのに… ――お前らの考えなど、お見通しだ。 意地の悪い笑みと共に、そんな台詞が聞こえてきそう。 そう思うと、とても不愉快だ。 「こんなとこで何やってんの?」 聞き覚えのある声に、顔を上げる。 他校に進学した、中学の同級生だ。 「別に、何も。 あんたこそ、何してんの?」 「ガッコのやつらと遊びに行くとこ」 「変なのとつるんでるの?」 「はぁ?何だ、突然」 「いや、だって。気持ちの悪い眼鏡かけてるから」 「ひでぇ…兄貴から黙って借りてきたのに」 「それ、借りてない」 「スキーの時にかけるサングラスだぜ。かっこ良いだろ?」 「スキー場ならね。部活はどうしたの?」 「兄貴はセンスないのか…辞めたよ」 「お兄さんは悪くないんじゃない? で、何で辞めたの?中学の時は頑張ってたじゃん」 「本気で甲子園目指すとかいってんだもん」 「頑張れば?」 「やだよ。俺はそこそこでいいんだよ」 「野球やってたら甲子園目指すもんじゃないの?」 「人によりけりだろ。趣味で楽しくやりたいの」 「せっかくの高校球児なのにねぇ」 もったいない、と言ったら、うるせぇ、と捨て台詞を残して行ってしまった。 落ち込んでるわけではないけれど、どうにもすっきりしない。 気分を変える為、早めの入浴タイムとしよう。 担任に言われたことが、胸にしこりを残す。 同級生に言ったことが、自己嫌悪を誘発する。 ――ああ、担任と同じ事言ったなぁ もったいないとは言ったけど、私もそこそこの高校生活を送るのだろう。 なら、せめて。 後悔しないように心がけなきゃ。 頭をワシャワシャと、少し乱暴に洗いながら、鬱々した気分を一緒に流すと、話題作りの為の番組を思い描いた。
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