知ってる

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社長が、私の前まできて止まった。 「なる」 名前を呼ばれても、私は社長を見ることができずにいた。 社長が、右手で私の顎をクイッとあげた。 また、視線がぶつかる。 「なる」 社長が私の名前を呼ぶ声に、涙が溢れてしまった。 そんな私の顔を見て、社長がニッコリ笑った。 「もう少しはやく気付いてもよかっただろ?」 …え? 私は、社長のその言葉にパチパチと瞬きした。 「…遅いって、…私が、社長を好きだって気づくのが、遅いってことですか?」 「…それ以外に何があるんだ?」 私の頬が、また熱くなるのがわかった。 「…私は、…もう社長の気持ちは、変わってしまったんだとばっかり…」 社長がまたニッコリ笑う。 「そんなすぐ変わるぐらいなら、もうとっくに変わってる」 う…、どうしよう…、うれしい…。 また、涙ぐんでしまう…。 「おい、なんで泣くんだ?」 「すいません…、うれしくて…」 社長が優しく笑ったと思った瞬間、涙がこぼれてくる私の瞳にキスをした。 嘘のように、涙がとまった。
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