ボタンと悪魔

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「ねぇ、牡丹の花言葉って知ってる?」 母さんが好きだった淡いピンクの牡丹の花弁を弄りながら、一ヶ月前から僕につき纏い始めた、黒く丸い綿に尻尾と羽根をつけたような姿をした悪魔、四月朔日(わたぬき)に話しかける。 【ぼたんって、花の牡丹かい?】 花瓶の横で、顔をついと上げて、あるのかないのか分からない目で、花瓶の先にある牡丹を見つめる。 「花言葉って言ってるんだから、花の牡丹だよ」 【悪魔のぼくに聴く方が野暮だよ】 「う~ん、そっかぁ。牡丹の花言葉はね、高貴、富貴、壮麗、恥じらい、誠実なんだ」 【へぇ…その堂々とした佇まいに似合った花言葉だね。そういえば林檎は、牡丹に思い入れがあるのかい?思い返してみれば、ずっと牡丹を飾ってあるね?】 「うん。死んだ母さんが好きだった花なんだ。僕に牡丹の花のように、誠実で恥じらいを知る立派な大人になりなさいって教えてくれた、母さんを見守ってくれた花だから、僕も好きなんだ。僕も母さんのように、厳しさの中に優しさを持つ、立派な大人になりたいから」 【君がそう言うくらいだから、本当に立派な人だったんだろうね】 「うん。だから、もっと僕にいろいろ教えて欲しかったな。でも、甘えてばかりじゃ駄目だからね」 【林檎は十分頑張ってると思うけどね】 「だって僕はまだ高校生だよ?まだスタートラインにさえ立ってないのに、頑張らないと」 頑張らないと。そう言ったら、四月朔日が微かに笑った。 【林檎はいい子だね。賢いし才能もある。でもね君はもう少し、いや、もっともっと他人を疑うことを知った方がいい。君が思うほど、人間は美しくないんだよ】 尻尾を振りながら、まるで歌うようにそう言った。
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