ボタンと悪魔

5/6
前へ
/6ページ
次へ
【うんうん。気になるよね。でも林檎だって分かってるはずだよ?君の母親はね、父親の浮気相手を呪ったんだよ。それはもう、熱烈にね】 声がないまま呻く人間の形をしたモノを見ながら、母さんの死に際を思い出す。凄まじい断末魔を上げながら身体を捻じ曲げられて死んでいった。僕の目の前で。 【浮気されて、愛する夫を盗られる恐怖に駆られて、様々な呪いを実行したんだよ。でもね、間違った方法が書かれたものばかり見たから、どれも効果は十分に発揮されずに終わった】 「じゃあ、どうして母さんは…」 【君のせいだよ、林檎。最終的には君の存在が、母親に罰を受けさせることに繋がったんだよ】 「……僕が?」 【林檎の母親はね、林檎のことを愛してなんていなかったんだよ。愛するふりをしてただけ。夫との子だから育てていただけ。いい妻にはなれても、母親にはなれない人間だったんだよ。だって林檎のことを、夫の愛情を横取りする邪魔者としか思えなかったんだからね】 「どうして、そんなこと言うのさ?母さんの何を知ってる訳?」 【そりゃあ知ってるよ。何せ林檎が生まれてから今までずっと、君達を見てきたからね。悪魔はよく気に入った人間の一生を見守るんだよ。人間が好きだからね。だから、ずっと君を見てた。あんな人間から生まれたのに綺麗に育っていく林檎が、好きだった】 なんだろう。まるで空中を浮いてるみたいに感覚が遠ざかっていく。母さんが僕を愛してくれてなかった?あんなに笑顔で抱いてくれた母さんが? 【そしてね母親はあろうことか、林檎まで呪うようになったんだよ。夫の愛情を横取りされ続けるくらいなら、呪ってやるってね。だから仕方なく林檎に向けられた呪いは返して、その分、母親のボタンは速く色づいていったんだよ。で、罪が弾けて罰を受けたんだよ。信じるかどうかは知らないけど、母親は牡丹の花のように、壮麗に咲き誇ることは出来なかったよ】
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加