ボタンと悪魔

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「なんで今更、そんな話をするの?」 【なんで?そのことを知っておいた方がいいと思っただけだよ】 「それを話して、僕が死んだ母さんを呪うかもしれないって思わなかったの?」 【うん。微塵も思わないよ。だって、林檎には哀しみって感情がないからね。哀しみがなければ恨みなんて生まれっこない】 「なんだ…知ってたんだ。母親に呪われてたのに哀しめないなんて、すごい欠陥だよね」 【ぼくはそう思わないけどね】 「僕にそんな話をして、何が目的なの?」 【目的なんてないよ。昔話をしたくなっただけだよ。まぁ強いて言うなら、林檎の一生を見守るくらいかな】 僕の肩の上でくすくすと笑う。なんとなく、四月朔日の目的が分かった気がする。きっと、哀しみを持たない僕が何に哀しみ恨み呪うのか見たいんだ。 まぁ、つき合ってあげてもいいか。きっとこの先一生、哀しむことなんてないんだから。 なんとなく空を見上げると、まるで泣いているような赤だった。
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