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「そうねぇ、愛する人を失ったからよ」 「ウォレット伯爵は?」   馬車を降りて、建物の入り口に立つ。 扉の前の従僕が恭しく礼をして、扉を開けた。途端に、まばゆい光が入り込んでくる。 「いい、リズ?あたしはこれからウォレット伯爵夫人リリシアではないの。 レディ・シシーと呼んで頂戴」 「レディ・シシー…、は?」 「あなたは、そうね…面倒くさいから、リズでいいんじゃない?」 「え、あの…」   リズはエリザベスの愛称だ。 父や母、そして仲の良い親戚や友人はエリザベスのことをそう呼んでいる。 これでは仮名の意味がない。 困惑しながらも、エリザベスはリリシアについてパーティー会場に入って行った。 途端に、音楽と、騒がしい笑い声が聞こえる。 社交界ではありえないことだ。 エリザベスは息をのんだ。
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