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薄く色づいた形の良い唇から、蠱惑的な声が発せられる。
「お待ちしておりました、私の姫君」
白い手袋をはめた手が、エリザベスの前に差し出された。
すると、先程まで感情を見せない完璧な淑女だった彼女の表情が変わる。
年相応の、はにかむような微笑みが浮かんだのだ。
心なしか、その頬が薔薇色に色づいている。
エリザベスは、青年の手に己のそれを重ねた。
「いまかいまかと待ち焦がれていたのですよ、貴女がいらっしゃるのを」
彼の名はヴァレリアン・セシル。
海運業を営み、たった一代で社交界に顔出しするほどまでのし上がった“海の覇王”。
または宮廷の貴婦人と数々の噂がある“宮廷の恋人”。
そして今度は、完璧な砦の中から姫君の心を奪った“宝石の盗人(ぬすびと)”――…。
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