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風真と離れて座っていた拓也が、見ていられないと言った表情で割り込んできた。
「じゃあ拓也はわかんのかよ?」
「え、だってそのままの意味じゃないか」
「じゃあ教えてくれ」
「世界を旅できなかった。だから、ここに来た人には世界を旅した気分になって欲しいってことじゃない?」
そうサラリと言うと、拓也はすくっと立ち上がって歩き始めた。
「おーい。どこいくんだ?」
「僕、ちょっとトイレ」
「お、おう」
いきなりかよ、そう続けようとしたが、突然服の端が掴まれて、それはならなかった。
視線を、トイレに向かった拓也から、服の端を掴んだ美空に移す。
頬が紅潮し、見上げてくる両の目は、なぜか潤んでいる。
少しばかりの緊張、静寂。
周りはガヤガヤうるさいはずなのに、座ってるベンチを中心とした半径五十センチの世界だけ、まるで時が止まってるようだ。
「ほら、観覧車、乗ろう!」
静寂を打ち砕いたのは、美空の一言だった。
「乗るつっても……拓也は? トイレに行っちゃったじゃん」
「いいから、早くしないとまた行列出来ちゃう!」
【2】
腕時計を見ると、五時五十五分を過ぎたところだ。
六時から何がイベントが始まるとアナウンスしていた甲斐もあり、待ち時間はそれほどかからずに観覧車に乗ることが出来た。
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