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本当なら、うれしい。
〝待つ〟と言う行為が大嫌いな風真にとって喜ばしいことのはずであった。
が、今の風真にとってその〝待つ〟時間がないことは、心を整える時間が無いことに直結していた。
隣には座らず、お互い向かい合って座る。直視することなどできず、風真は視線は外に固定していた。綺麗な夕焼け――燃えるような緋色。
ふと、夕焼けが紅潮した美空の顔に重なり、ブンブンと顔を二度振る。
ほんの数分前まで意識なんて微塵も感じていなかった心に、ほのかな甘い何かが心に咲き始めているのが感じられた。
時間と言うものは、感覚では止まることはあっても現実では止まることはない流れである。
それを示すように、ゴンドラは観覧車の頂上まできていた。
それまで、一切の無言。話しかけようと試みるも、美空は顔を下げたまま。
雰囲気とその状態の彼女とが混合した空気の中に飛び込むことなんて出来ず、ただ外の景色を眺めるだけだった。
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