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少女の足下には、地球があった。
赤褐色の地面に、雲の掛かった海。
誰もが一度はテレビなどで見たことのある、宇宙飛行士が暗闇の中を漂いながら見下ろした、時の地球の景色だ。
異常な景色に見とれていると、突然、少女は左手の爪を立て、雪のように真っ白な自らの右腕を抉った。
彼女は動物であり、人間だ。そのことを示すように、血がどくどくと溢れ出す。
「ねえ、君はこれが何色に見える?」
傷口を人差し指で拭い、コチラに見せてくる。溢れ出た血が指に付いていて、その色はもちろん、鮮烈な〝赤〟だ。
「そうだよね。私にも、私の血は赤に見える。じゃあさ、これは何に見える?」
そう言って、人差し指を下へ向ける。血が人差し指に溜まって行く。
少しの時間が経つとまるで熟したリンゴのように、下に落ちて行った。
その先にあるのは、地球。血は、物怖じせず、太平洋の真っ青な無表情に呑み込まれることを受け入れた。
「うん。私も君と同じ。地球に見える」
少女は人差し指に残った血を、舌で一舐めした。
「でもさ、私、いつも不思議に思うんだ」
ここには無いはずの風が、綺麗な長い黒髪を煽(あお)って靡(なび)かせる。
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