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そう言いながら、美空は突然風馬に抱きついた。
「ちょ、やめろって!」抱き締めてくる美空に苦笑いしながら言う。
「えへへ……」と顔を綻(ほころ)ばせながら離れる。
「なんか妙にテンション高くね?」
「だって、風真が引っ越して以来だよ!? しょうがないじゃん!」
フン、と鼻高くする美空。
一方、拓也は右手を静かに上げる。ハイタッチの合図だ。肌と肌がぶつかり合う音が綺麗に鳴る。
「向こうでの生活はどう? 上手くやってる?」掌を擦りながら訊いてくる。
「あったりめーだ」風真は答えた。
拓也の言う新しい生活。
それは、二年前、この埼玉県古谷市を親の仕事の都合で千葉の田舎に引越ししたことを指していた。
しかし、引越しをしたのはもう二年も前のこと。
七百日強の時間が経ってしまえば、生活の一部に溶け込んでしまう。
転校した先で一人ぼっちになってしまうというのはよくある話だが、比較的友人を作ることが得意だったためその心配は無かった。
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