それは突然

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今日の外回りは大田区にある今急成長中のアパレル企業。 新規事業を立ち上げるので融資相談を受けるためだ。 なぜ八王子支店の人間が?管轄外だろ・・・と言うのもあるが、昔、本社が八王子にあった頃から我が行を利用していただいている古い付き合いだ。 先代社長から今の息子さん・二代目社長に代わって急成長し大企業になってからも担当は変わらず八王子支店を利用していただいている。 ここまでの企業となると本社管轄になってもおかしくないんだが・・・何故か私を指名して下さってお得意様になっていただいている。 本社ビルは自社ビルでこの建設に当たっても融資に関わった感慨深い会社だ。 ビルの最上階に通され秘書に名刺を渡し、奥の社長室に通される。 赤じゅうたんを一面に引きつめた廊下で向こうから不似合いな学生服姿の少年とすれ違った。 身長は高く180cmはゆうに超えている。 すれ違って一瞬、間があって立ち止まった少年は 「宮城野先生?」 と振り向いて言った。 「え?」 「忘れちゃった?それとも、デカくなったから分からないかな?俺、岡崎裕輔(おかざきゆうすけ)・・・小学校の時、塾で教わってた」 「えっ?あの・・・ああ・・・裕輔?、全然分かんなかった。大きくなったな」 「今、何の仕事してんの?」 そこまで話した所で奥から声がした。 「オイ!裕輔!早く帰りなさい」 「社長、ご無沙汰しております・・・と言う事は裕輔君はご子息ですか?」 「まったく困ったもんだよ。これから仕事なんだから帰りなさい。後は家で話そう」 「わかった。じゃあ先生、ごゆっくり」 手をひらひらさせて愛想よく帰っていった。 その後ろ姿はあの時の少年ではなく、男らしい精悍なものだった。 後輩・佐野は怪訝そうに質問してきた。 「先輩?お知り合いですか?」 「ああ、大学の時、塾の講師のバイトをしててね。その時の生徒だったんだ」 こんなところで会うなんて・・・しかもあんなに男らしく、いい青年になって・・・。 記憶の中での岡崎裕輔はまだあどけない少年だった。 彼を教えていたのは11歳から15歳まで。まだ三年しかたっていないのに容姿はまったく違う。愛らしい眼元はそのままだった。 たしか東大に何人も合格者を輩出する某有名私立の男子校だったはず。
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