それは突然

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岡崎社長の所を出たのはもう4時過ぎ・・・夕暮れが迫っていた。近くの企業にもあいさつ回りをして今日の仕事は滞りなく終わった。 「佐野くん、どうする?一杯飲むか?」 「いえー、せっかくなんですけど東京の真ん中まで来たんで、その・・・・彼女とデートする約束しちゃって・・・スイマセン」 「そか・・・じゃあ、楽しんで来い!じゃ俺帰るから、お疲れ~!」 後輩の佐野と別れ中央線に乗って新宿に向かう。 そうだよな・・・もう三十路も過ぎて恋人も居なかったらなんかいわれるかもなぁ。 全てにおいてそつなくこなせるのに唯一誰にも言えない秘密がある・・・。 それはここにある。新宿と言う都会にわざわざ住んでいる意味。 新宿のここに近いから・・・そこは雑踏とネオンが入り混じり男達が夜な夜な集まる社交場。 何の躊躇なく一軒の店に入る。 「航ちゃんお帰り~。今日は外回り?」 野太い声で迎えてくれる店のママ。 厚化粧にバーテンダーの服装・・・都(みやこ)ママだ。彼女は女装はしない。男の姿のまま顔だけ化粧するのだ。 カウンターに座ってバーボンをロックでもらうとすかさず声がかかる。 「お隣いいですか?」 「どうぞ」 仕事は美容関係かな。ラフなスタイルだが崩れていない。夜用のスーツをさりげなく気崩している。センスがいいし、手が綺麗だ。 「仕事帰りですか?食事はしました?」 「ええ、軽く」 「家は遠いですか?お時間あります?」 「ええ、家は近くなので平日でも来る時があります」 「そうですよね。サラリーマンの方だからすぐ帰る時間になってしまうと淋しいので」 「少しの時間はお付き合いできますよ」 「少しとは言わずに長めにお付き合いできるといいんですが」 狭い世界だ。ここにいると何となく鼻が効くようになる。 やはり美容師だった・・・タケシと名乗った20歳代前半の青年、顔も好みだ・・・なにせ手に惹かれた。 酒を二杯飲むとそのまま自宅へその青年をお持ち帰りした。
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