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「邪魔だ。失せろ」
物陰から、唸りを上げたオオカミが牙を剥きながら飛びかかってくる
それを、長剣の一振りでいとも容易く斬り捨てる鎧の男
犬の様な悲鳴を撒き散らせながら、崩落した民家の向こう側へと消えていく肉の塊
ジンバブエ星系惑星ブラワヨ
各惑星に一つずつ存在する、深淵ダンジョン第35階層
この古い市街地跡は、現実において【カミ遺跡郡】と呼ばれている
だが、こちらの世界では人を好んで襲う”ちょっとばかし変わった”生物たちの住処となっていた
「着いた。この先がボス部屋だ。全員、死なないように気を付けろ」
何をどう気を付けろと言うのだ
先頭に立った騎士風の男の発言に、集団の後方で欠伸を漏らす少年が小さく毒づく
艶のある黒髪に、少女にしか見えない可憐な顔立ち
深い紺色のマントを身にまとい、堅い足音を響かせる物のいいブーツ
腰に差した二本の刀に手を掛けて、暇そうに前方を見つめる
「これから俺たちはボス戦に突入するわけだが、誰かファーストアタックを希望する者はいないか?」
パーティーやその複合体、レイドパーティを組んだ際に投げかけられる、最後にして最も聞きたくない問いかけ
ほとんどのプレーヤー達は、その質問に対して気まずそうに顔を背けてしまう
一度でも最前線のボス攻略に臨んだ者たちは、嫌というほどその恐ろしさを理解しているからだ
「へへっ、誰もいねぇみたいだな。なら遠慮なく俺たちが行かせてもらうぜ」
「あぁ、そうだな。貴重なファーストアタックボーナスを辞退するとは、よっぽど懐が温いらしいな」
少年のさらに後方、殿パーティーギリギリのラインから声を上げたのは、いかにもといった盗賊風の二人組
現実でも盗みを働いていたのでは、と思わせてしまうようなジョブに填まった彼ら
そんな彼らは絵に描いたような、にやにやと嫌らしい笑みを浮かべながら前に出る
「ねぇラミル。あの二人って…」
「あぁ、今回の攻略から【円卓の騎士】に加わったルーキーたちだ。出発時にはでかい口叩いて喚いてたけど、どうだかね」
少年の隣にいた少女が小声で耳打ちをする
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