「苦手だ」

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 今では根っからの文系男子になった彼は、最近読書にハマっているらしく、その所為か余計に大人びた印象が強まっている気すらしてくる。  顔もいいし、陰ではかなりモテていそうなのに、そういったものを一切匂わせない。  その理由のひとつに、あたしとよく一緒にいる所を見かけられる所為で付き合っていると思っている人が多いことと、観察力が高く色々と見抜かれてしまうがために近寄りがたいと感じている人が多いことが挙げられるだろう。  別に交際している訳ではないが、友人として、人として彼のことは純粋に好きだ。  話していると、自分がどれだけ幼くて気が急いていたのかを実感する。  彼といると、時間の流れが急にゆったりとしたような、そんな気分にすらなった。  そういうところが落ち着くし、ちゃんと自分を見ていてそして理解してくれていると感じるから、安心して話していられるのだ。 「加地君って、ちゃんと自分を見てくれてるって分かるから、一緒にいてすごく安心するんだよ。  だからかな。  恋愛感情とかそういうの、全部取っ払って、純粋に『加地正人(まさと)』っていう人間が好きだな、とは思うよ」 「詰まる所、恋愛感情での“好き”ではない、って言いたいんでしょう?」 「まあね。そういうことになるかな」 「加地君は、どうなのかな。  朋子ちゃんのこと、同じように異性として、なんとも思ってないのかなぁ」  ぼそりと呟いた牡丹の言葉に、ふと意外だなと感じた。  今まで自分は一人の人間として加地君という人間を好いていたし、大変気に入っていた。
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