「苦手だ」

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 嫌なくらい、心臓が大きく飛び跳ねた。  眠そうで疲れ切ったような眼が、じっとこちらを射抜いてくる。  それがこんなに心地の悪いものだったなんて、今まで感じたことがなかったから正直驚いた。  しかし、それはきっと彼に対して強い苦手意識を持ったからなのではないか、とすら思う。 「女の子には、その、色々あるの」 「ふぅん。生理か」  カッ、と顔が熱くなった。  きっと、あたしの顔は今、真っ赤なのだろう。  それを気にしているのか定かではない片岡君は、冷静にそんなあたしの姿を観察しながら、ふっと小さく鼻を鳴らした。 「図星、ね」 「ちがっ……わ、ない、けどっ」 「けど、何?」  じっと動揺するあたしを見据えてくる片岡君の黒い瞳には、人間味というか温かさがなかった。  嫌がらせなのか、性質の悪い悪戯か。  その真意は計り知れないが、恥ずかしがって狼狽しているあたしを見て、楽しんでいるのではないかと思えて仕方なかった。 「そ、そういうこと、あんまり言わないで欲しい、っていうか。デ、デリカシーないよ、片岡君」 「悪いね。俺、そういう気遣いとか出来ない、ガサツな奴だから」 「だっ、だからって、女の子相手にそれは、ないと思う」 「それって?」  この人はわざと聞いているのだろうか、いや、そうに違いない。  そうとしか思えない言葉が返ってきて、軽く目眩がした。  淡々とした無表情だった彼の顔が、徐々に楽しげな悪戯っ子の顔になっている。  くそ、踊らされている、と自覚しながらも、あたしにはどうすることも出来なくて、ただ些細な抵抗をするのがやっとだった。
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