「苦手だ」

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 いつも通り、退屈な授業。  多くの生徒が欠伸を噛み殺し、授業に身が入っていないのが分かる。  夏の香りを漂わせ始めた今日この頃は、やや蒸し暑さを感じながらも、暖かな陽気に睡魔という甘い誘惑が顔を出す。  クラスの多くの生徒が、その誘惑に負けて居眠りをするか、こっくりこっくり舟を漕いでいるのが見受けられた。  あたし自身、其処までかっちりと授業を聞いている訳でもないため、彼らをとやかく言うことは出来ない。  しかし、それでも眠気と戦いながらちゃんと授業を受けている身としては、隣で大胆にも爆睡している奴を見ると、少し腹が立ってくる。  こっちだって眠いのに……ここまでくると、ムカつくけど清々しいな。  間近で見なければ、寝ているのか起きているのか分からないほど、さりげなく寝息を立てているお隣さん。  頬杖を突いて、ノートを見るように下を向き、静かに目を伏せている。  しかし、僅かだが時折舟を漕いでいるので、寝ていることは確かだった。  ポキ。  ぐっ、と手に微かに余計な力がこもって、シャーペンの芯が折れた。  吐息を漏らし何度もノックするが、なかなか新しい芯は出てこない。  カチ。  カチカチカチ。  ……。  カチカチカチカチカチカチカチ。 「……あー、もう」  口の奥の方で小さく舌打ちをし、筆箱の中から芯の入ったケースを取り出す。  その中から二本ほど取って、手早くシャーペンの中に入れる。  すると、ようやく新しい長い芯がペンの切っ先から現れた。
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