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それにやっとこさ一息吐けた時には、教科書の朗読があたしの隣で寝ている奴の前まで回ってきていた。
「えー……次、片岡(かたおか)。続きから読め」
名前を呼ばれ、彼は寝ていたとは思えないほど、すんなりと瞼を上げた。
しかし思考は回っていないらしく、きょとんとして何度も瞬いている。
しばらく微妙な間が空いた後、彼はゆったりと立ち上がってパラパラと教科書を開いた。
「あー、っと」
ポリポリと頭を掻き、ぼんやりとした眼差しで机に広げた教科書を眺めている。
無性にイラッとしたのも確かだが、この状況が続くのも余計に苛立ちが募るばかりであった。
静まり返った教室内には、時計の針が黙々と進む小さな音と、外のグラウンドで体育の授業をしている生徒達の掛け声だけが響く。
そして、先生が教卓を人差し指で小突く、急かすような小さい音が耳に障る。
少し息苦しいようなこの空気に痺れを切らし、思わず貧乏揺すりをしそうになるのを必死に堪えた。
一分ほどが経過した辺りから、さすがに焦りのようなものが彼の表情に表れ始めた。
じっと教科書を睨みながら、どうにかしてありもしない記憶を手繰ろうとしているのだろうか。
しかし、残念ながら寝ている彼にはその記憶など存在するはずもなく、正直に観念する他なかった。
特に助け舟を出す気もなかったため、ぼんやりと窓の外に視線を投げていたあたしの背中を、何かがつんつんと突いてきた。
何かと振り返ってみると、友人の佐々木友理(ささきゆり)が何か言いたげな顔を向けてきていた。
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