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「朋子(ともこ)、あんた教えてあげなよ」
「何を?」
「教科書の次に読むところ。
片岡、かなり困ってるんじゃない」
でも、それは自業自得だと思うんだけどな。
そんな素っ気ない本音をぐっと噛み殺し、声を潜める友理の意見に従うことにした。
心の何処かで納得いかないと文句を言いながらも、仕方なく隣の彼が見ている教科書の一文を指差した。
彼は数回ぱちぱちと目を瞬かせた後、チラリとこちらを見て、ゆっくりとその視線を教科書に戻す。
そうして無事朗読を終えることが出来た片岡君の次は、あたしの番だった。
それも終わり、全員が読み終えたところで、授業終了の鐘が鳴った。
「きりーつ、れー」
挨拶を終えて、皆が散り散りに席を立つ。
あたしは小さく息を吐き、力なく自分の席に腰を下ろした。
ふと横に視線を移すと、じっとこちらを見ていた片岡君と目が合う。
思わずぎょっとしながら、僅かに目を丸くした。
「え。な、何」
「さっきはどーも」
「あー。いいえ」
お互い小さく会釈して、会話終了。
基本、いつもこの程度で、其処まで突っ込んだ話など一度もしたことがなかった。
其処まで親しい訳でもなければ、話す方でもない。
どちらかと言えば、一方的ではあるけれど、苦手なタイプだ。
見た目だけならそれなりに格好いい部類に含まれるのであろう彼は、常に気だるげで眠そうな目をしている。
不真面目で、授業もよくサボっていた。
否、居眠りの常習犯なので、必然的に授業をサボっているという評価に繋がる。
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