「苦手だ」

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「それにしても、朋子がそんなこと言うなんて珍しいじゃない」 「そうかな」 「そうよ。  だって、あんたって基本、色恋沙汰には興味ないでしょ。  何、好きな人でも出来たの?」 「え、い、いないよ」  別段嘘を吐いているという訳でもないのに、何故かどもってしまった。  目の前にある友理と牡丹の眼が、きらりと光った気がする。  それに嫌な予感がしながらも、今頭に浮かんでいる少年の顔は、好きでもなければむしろ苦手な男子の顔だった。  正直言うと、友理の言う通り色恋沙汰に興味のなかったあたしにとっては、男子に一定以上の関心を持つことはかなり珍しい。  つまり、抱く感情がプラスだろうがマイナスだろうが、浮かんでくる顔は関係ないのだということだ。  その相手は案の定、自分の席でいつもの如く眠りこけている。  彼の名前を出すことになるとは思わないが、仮にもこの話題で彼の顔を思い浮かべてしまったことへの深い後悔が心の中を占めていた。 「本当、朋子って秘密主義だから困るわ。相手は誰なのよ」 「や、だから誤解だって。そんな人いないよ」 「じゃあ、ついさっき目で追った人物は誰なのか、言ってみなさいよ」  まるで確信を突いたかのような自信に溢れた目で問い掛けてくる友理に、ぐっと言葉が詰まって出てこなくなる。  不覚にも、どうしてあいつの顔が、と一瞬だけ彼の方を見てしまっていたのだ。  その僅かな気の緩みに文句を言いながらも、その人物を恋愛談義の中に名を出したくはなかった。  むしろ苦手意識を持っている人物の名を、好きな相手と勘違いされているとはいえ、出したいと思う人はいないだろう。
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