「苦手だ」

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「ほら、言いなさい、朋子」 「う……じ、じゃあ、牡丹が好きな人を教えてくれたら、説明するっ」  苦し紛れに巻き込み事故を起こしたあたしに、牡丹はぎょっとしたように小さく飛び跳ねた。  それと同時に、あっという間に耳まで真っ赤になっていく。  その純粋無垢たる姿や反応があまりにも可愛くて、あたしも友理も一瞬なんのことについて話していたのか忘れてしまった。  おろおろと動揺を隠しきれない様子で二人の顔を交互に見る赤い顔に、愛おしさを感じながらも同じくらい申し訳ない気持ちにもなった。 「えっ、あ、あのっ」 「そういう訳だから牡丹、誰が好きなのか教えてくれる?」 「そっ、そんなぁ」 「ごめんね、牡丹。あたしもつい、出来心で」 「……う、ううん、いいの。  わ、わたしも、朋子ちゃんの好きな人、気になるし……」  純粋に興味を持って知りたいと言ってくれている彼女に対し、胸へグサリと鋭い何かが刺さったような気がした。  残念ながら、あたしに好きな人は存在しない。  それなのに、その存在しない好きな人を知りたいと言って、自分の好きな人を教えてくれる気になっている牡丹。  何故か彼女を騙しているようで、本当に大きな罪悪感に苛まれ始めていた。 「わっ、わたしね、その。好きな、人は……」 「ちょっ、待った。ごめん、嘘吐いた。  あたし、本当に好きな人なんていないの。  だから無理に言わなくていいよ」 「本当にいないなら、なんで動揺したのよ。  色々、疑問が多いと思うんだけど」
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