夏の日

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情事のあと、裕輔は不意に提案してきた。 「明日、育った村に行ってみたい」 「そか・・・あんまいい思い出ないけどな」 「いや?」 「いいよ、行こう」 自分を他人にココまで晒した事はない。すべてを知られてもいいと思ったのはコイツが初めてだ。 過去を乗り越えよう。決着をつけよう。そう思いながら深い眠りに就いた。 田舎の朝は早い。 どんどんとドアを叩くと音で眼が覚めた。 「航耶~!むがさりすて、ちゃっちゃと起きろ、ままさできたど」 「ああ~!」 「んー?なんだって?」 「夜更かしして、早く起きろ、メシができただって」 「おお~!そなの?」 「東京の人が来るとあんまり訛らないように喋ってくれるんだけど」 「息子だからじゃない?」 「そか・・・田舎の朝は早いから・・・ごめんな」 「早起きは三文の得でしょ。せっかくのごはん頂きに行かなきゃ」 適当に服を着て下に降りると学生たちもいた。 全員で 「お早っす」 と大声で挨拶された。 「岡崎さん、あがてけらっしゃい」 「はい、あ・・・裕輔でいいです」 「ほだな…だば、裕輔さんも東大生んだっけが?」 「ひょ~!すげぇな!おばちゃんの息子さんもだったよね。頭いいんだ」 「そんな事も無いですけど」 「息子はそれ程でもねぇよ」 「あ・・・おばちゃんには御世話になってます」 「こちらこそ、お袋が世話になってるな」 「こいづがおらのあがすけ息子」 「だれがっ!」 「なんだって?」 「生意気ってこと」 「ふぅ~ん」 「おばちゃんのままうめぇから」 「は~い、いただきます」 賑やかな朝食だ。お盆なのに実家にも帰らない大学生がこんなにもいるなんて。これなら淋しくないだろう。 「お袋、明日俺たち帰るわ・・・温泉寄ってから東京に帰る」 「んだばー」 「蔵王に行って帰るわ」 「んだか、今日はどさいぐなやっす?」 「今日は村行ってくるわ」 「なしてんだなや?」 「裕輔に見せておきたいから」 「わがった」
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