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思いもよらぬ再会をした後、僕はこういちに手を引かれ、彼の家に行った。
ここは、こういちが留学してから、一度も来ていない。2年か3年、月日が経つのだけれど、思い出はそのままに、相変わらず大きい玄関だとか、高そうな置物とかインテリアとか、あの日とすべて変わっていない。
(懐かしいな…あの頃はよく来てたもんな)
僕は愛しい人に手を繋がれたまま、家に招き入れられた。まだ夢みたいだ。もう会うことは叶わないだろうと思っていた相手が、まさか隣にいるなんて。
「どうした?」
「…え?」
「まだ信じられない?」
長身で精悍な顔付きの彼は、僕を苦笑しながら見つめている。どうやら僕は、ボケッとアホ面をしていたようだ。
「…ごめん。あまりにも急展開だから…つい」
「そりゃそうだよな。つい数時間前まで、俺もおまえの記憶がなかったわけだし」
彼は頬を弛ませながら靴を脱いだ。動き方もちょっとした仕草も、別れる前の彼とまったく変わっていない。しかしこんな都合のいい話、本当にあるのだろうか。今いるここが、現実の世界なのか疑わしくなってきた。
「こういち…」
僕は再度こういちの大きな手を握った。日に焼けた彼は、ゆっくりと振り向く。
「ん?」
「本当に、本当だよね…嘘じゃ、ないよね…?」
「冬夜…」
「嘘だったら嘘って言って…」
「ばか」
こういちは、笑いながら僕の頬を両手で包んだ。ああ、この感触、久しぶりだ――。
「嘘でも夢でもないよ。俺はここにいる。帰ってきたんだ」
彼はにこりと微笑んだ。彼はそう言っているけれど、まだ僕は実感がわかず、真顔のまま反応することができなかった。こういちはちょっと悲しい表情をうかべ、背中を丸めてキスしてきた。
唇が触れ合うだけの優しいキス。それだけで十分だった。長い間胸底に押し込めていた感情が堰を切って溢れだし、僕は涙が止まらなかった。つらいことを思い出したら、感極まって彼に抱きつき、何度も唇を求めた。彼はそれにていねいに応えてくれた。優しくて、体ごと包み込んでくれるこういちに、僕は思いの丈をぶつけ、狂うようにむせび泣いた。
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