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「こういちぃっ…」
「はいはい、泣くな泣くな。ほんと、こんなに経っても泣き虫なとこは変わってないな」
こういちは苦笑いして僕の背中を抱き、2階にある自室まで連れ添ってくれた。彼の腕は筋っぽく、たくましかった。
彼の部屋も、最後に来た日とまったく同じだった。あの時はまだ事故の前で、ただ単に幸せだった。でも今とどちらが幸せかと言われたら、わずかな差で今を選ぶかもしれない。
だって、好きな人がまた隣にいる。
「こういち…」
ドアを閉められ密室になると、僕はたまらずこういちに抱き付き、みずから唇を奪いにいった。こういちは不意を突かれて目を見開いていたが、僕の誘いにためらうことなく応じた。獰猛なくらいに何度も何度も角度を変え、激しく舌を絡め合った。
「…は、ん…っ…ん!!」
息が苦しくなって一瞬顔を背けたけれど、すぐに追われ口を塞がれる。顔の筋肉に力が入らなくなって、飲み込めなかった唾液が顎下に垂れる。
「冬夜…」
腰が完全に砕け、フローリングにへたりこんでしまうと、こういちは同じように座り込み、憑かれたような瞳で僕を見る。
その強烈な視線に背筋がぞくぞくする。懐かしい。こっちまで興奮してしまう。
「こういち…」
「…すごく不思議な感じだな」
「え…?」
「いや、だってさ、いくら言い訳しても、この3年間おまえのことずっと分かんなかったし、気持ちも離れていたんだ。今となっては黒い歴史だけど、向こうに行ってから、他の女が好きなこともあったんだ。だから、記憶が戻ってきた今だって、昔好きだったやつが現れても、俺のなかでは昔の恋人だろ。すぐ好きになるとか、あり得ないだろ」
「こういち…」
僕が少し悲しそうな顔になると、こういちは優しく微笑んだ。
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